佐藤瑛・浮遊する微熱GIRLはアゲハチョウの夢を見る

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佐藤瑛(さとうひかり)を応援しようと思った3つの理由。

星の数ほどアマチュアミュージシャンがいる。
ギターの弾き語り、ピアノの弾き語りからバンドまで。

それぞれの感性を使い、言葉とメロディーをつくりあげていく。

私たちが生の音楽と触れ合うチャンスが広がっているのは、日本中で歌い続けるアマチュアミュージシャンたちがいるからだ。

佐藤瑛(さとうひかり)もそのひとり。九州、大分県出身のシンガーソングライター。
ギターを手にして歌う、すらりとした女性シンガーだ。
よくある女性アーティストの一人と思っていた。
でも。
彼女を初めて見たときに、何か少し引っかかることがあった。

 

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その1:佐藤瑛・たったひとりでパフォーマンスする。表現に対する厳しさと妥協のなさ

もちろん、歌うことが大好きじゃなきゃ人前に立って歌うことはないだろう。でも彼女のライブで感じたものは「ギターを弾いて歌を歌う」だけでは満足できないであろう「ものづくりの作家性」だった。

練られた言葉や、ギターをサポートする打ち込みサウンドや。
途中で披露されたフラットマンドリンなど。

バンドを組んで多くのミュージシャンを仲間にいれ、テクニックを分けてもらい、歌世界を完成させることもできるかもしれないけど、彼女のパフォーマンスから感じられたのは「私ができる精いっぱいのことだけで勝負する」姿勢だった。
それが佐藤瑛の世界を一番濃密にしあげていくレシピだということを、本人が一番わかっているからに違いない。

せつない男女の離別を歌うときに震える声。
大の大人をもぞくぞくさせる雰囲気。未来に希望のない男女がそれでも刹那をもとめる心の揺らぎが、その声の震えに現れていた。

表現したい欲求と、そのために自分をどうつかうか?というクールな審美眼の間を行き来する感じがとてもスリリングだった。
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その2:佐藤瑛・世界を分断し、再構築する。言葉をチョイスする厳しい目

ライブのあと、少しだけ話をした。
そこで感じたのは、「佐藤瑛は表現したい世界のために音楽はどうあるべきか?言葉はどうあるべきか?」を常に考えているのだということ。

すべてをギリギリの選択で作りこんでいけば、誰にも触れられない鉄の王国になってしまうかもしれない。
基本的には歌は、聞いてくれる人が世界を再構築するもの。
聞く人の感度は様々だ。
センスの高い人に向けて作ろうとすると作品は孤高になる。
なので彼女は「ほかでは聞いたことのない簡単なことば」を使ってくる。
さらりと聞く分には気にならない。
言葉は音楽の半分だから、耳なじみの良さが大切だ。
でも歌われた言葉が過去になる前に「ふっ」と引っかかる。

この手法のトップクラスは宇多田ヒカルだと思う。
誰もが聞いたことのある言葉を、考えられないメロディーに乗せ、耳なじみのいいサビ部分でポピュラリティーを会得する。
でもその裏には強烈なメッセージと、強固な王国が広がる。だれもが攻め落とせない宇多田ヒカルの城。

佐藤瑛はまだ、そこまでは行ってない。ほかの誰もが到達してないのと同じように。
でも僕は期待している。
彼女のイメージする世界が、天空の城のように空を飛ぶ日を。歌のキャラクターたちが夢を見せてくれて、思いを募らせてくれて、堂々と空を飛ぶ日を。

 

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その3:佐藤瑛・ファーストアルバム「HikariSt」のドラマティック

ライブは、目の前で演奏されるから、ある種のアドバンテージがある。
演奏のミストーンや、ピッチ・テンポのゆらぎですら「感情」を解きほぐす薬になるけれど。
CDはそうはいかない。

アマチュアミュージシャンのCDを聞くことも多いけれど、全9曲、これほどまでにバラバラに飛び散った内容のものにはあまり出会えない。
アーティストの色に合わせた曲が「ダブり」を産んで、同じような曲が並ぶところがある。
もちろん、それが素晴らしい効果を見出す場合もある。
アーティストのわかりやすさにつながるからだ。

そういう意味で言うと佐藤瑛の「HikariSt」はわかりやすい作品ではないかもしれない。
ただ、独立した楽曲が、何度CDプレイヤーの中で回り続けても飽きることはない。
それはまるで九つの国の代表が集まった世界大会のようでもある。

  • 切なさ
  • 苛立ち
  • ロマンス
  • 可愛らしさ
  • 落ち着いた時間

そんな風景を佐藤瑛はスケッチする。
イメージが立ち上がることばと、少しばかりスモーキーな歌声で。

弾き語りの女の子が、数名の名うてミュージシャンの助けを借りてアルバムを作るのではなくて、監督佐藤瑛が、楽曲の物語性を高めるために、「自分でない他のミュージシャンがやったほうがいい」と判断した部分だけを「パートタイム的」に使ってるサウンド。

製作・監督・主演・助演。
これをやらなければ気が済まないのかもしれない。
これ以上少なくならないのでは?と思える音数は、歌のストーリーと登城人物の輪郭をはっきりさせる。

 

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佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:01【溺れるような錯覚の中で】

溺れるような錯覚の中で:愛を言葉で語らない二人   まだ肌寒いはずの川沿い フライング気味な春の花   早春。川沿いを歩く二人。彼はポツリポツリと話し、彼女は頷く。 言いたい事や聞きたいことは、山のよ…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:02【butterfly effect】

butterfly effect:ちょっとしたことで変わる世界 バタフライエフェクトというのは、「蝶がはばたく程度の非常に小さな動きでも遠くの場所の気象に影響を与えるかもしれない」という気象学者のエドワード・ローレンツの…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:03【ラブジョイ】

ラブジョイ:二人の距離感 愛を楽しむ。ラブジョイ。 遠回りばかりするあなた。それ自体を楽しんでる彼女。 太陽のもとでとろけるアイスクリームは、爽やかなエロス。 佐藤瑛から沸き立つのは「エロス」、生命力だ。 本人もそれをわ…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:04【なみだぐも】

なみだぐも:弾き語りで表現される最高峰の切なさ ギターだけをバックに歌われるバラード。 アルバムの中で一番「弾き語り」が好きな人にアピールするであろう、ピュアネスと切なさが溢れ出る。 佐藤瑛のかすれた声が、ヒリヒリとした…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:05【ES/cape】

ES/cape:苦しみからRUNAWAY。佐藤瑛は飛べ!と歌う。 ギターのアルペジオに歌が導き出されてくる。   今すぐここから消えてしまいたい 縛られてばかりで苦しくて耐えられない   生きていば誰…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:06【poor baby】

poor baby:男友達と、私。 恋愛当事者には深刻な問題でも、外から見たらクスッと笑える。 佐藤瑛はpoor babyで「女の子に振り回される男の子」を少しコミカルに描く。 主人公の彼女はまだ、恋愛当事者になれないで…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:07【Heartin】

Heartin:軽いリズムで歌われる、変化に富んだ風景   深夜の1時、寝静まった10号線   北九州出身の僕にとって「国道10号線」は灰色の風景なんだけど ヒールの音をコツコツとさせながら ふわりと…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:08【さざなみ】

さざなみ:深い悲しみの底へ。 アコースティックギターの深い調べ。 沈んでゆく空気を表すストローク。 夕日が沈む。 光を踊らせるさざなみが、ゆらゆらと動く。 だんだん去っていくようにも見えるし、少しずつこちらに寄ってきてる…

佐藤瑛「HikariSt」全曲レビュー:09【アイスコーヒーはミルク入り】

アイスコーヒーはミルク入り:二人の時間 いきなりの歌い出し。 うちへやってきた彼はおつかれ気味。 低いソファ 腰下ろして あなたひとつため息つく 佐藤瑛のつぶやくたったこの2行で、二人の関係が「緊迫した恋愛ゲームの真っ只…

 

 

佐藤瑛(さとうひかり)は弾き語りをするけれど。

若い女性、女の子がギターを弾く。歌う。
そういうカテゴリが存在する。

穏やかに心を癒す人。
心の闇を炸裂させる人。
笑顔で人をハッピーにする人。
小さな体でアコースティックギターを抱える姿が「小動物的」な可愛らしさを生む人。
そんなアコギ弾き語り女性アーティストとして佐藤瑛を見ると、あれ?と思うかもしれない。
佐藤瑛はあなたの心のカテゴリーをぶち壊す。
◯◯系と、カテゴライズする僕らにあえて挑戦する。

 

大分県在住の彼女の活動場所は、やはり九州が多くなるのだけれど。
日本中の皆さん。佐藤瑛を見るチャンスがあるならば是非一度、彼女のショウを見て欲しい。
CD「HikariSt」を手に取ってほしい。

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